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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

ちょうどいい。すぐ庭の方へつれて来い。ひとつ、彼と鞠を競おう」

取次は走り去った。

程なく、また来て告げた。

「お急ぎとあって、はや御書院でお待ちでございます」

「鞠は」

「――そのような芸能は、氏郷、わきまえぬと、御挨拶で」

「田舎者よの」

信雄は、笑った。

歯はつやつやと鉄漿を染めている。

装束を解いて、書院へ上がった。やがて室をかえてから昼餐が運ばれ、主客の歓語は、さすがに親睦であった。

信雄と氏郷とは、年齢も似たほどだし、対比してみて、興が深い。

一は、信長という名門の子。

一は、その信長に征せられた蒲生賢秀という降将の子。

幼少氏郷が、信長の手許で養われ出したのは、まだ十三歳の頃だったという。

信長侍坐の諸将が、常に、兵を談ずる側にいて、この少年は、それがいかに深更に及ぶとも、かつて倦怠を見せたことなく、一心不乱に、語る人の口元を見ていたと。

稲葉貞通が、云ったことがある。

(蒲生の子は、尋常でない。この童が、一かどの武将にならなければ、成る者はない)

また、信長もいった。

(蒲生の子を観るに、眼睛がまこと美しい。いい若者になるだろう)

当時信長は、弾正忠と名乗っていたので、ついにその忠の一字を与え、忠三郎と名づけ、やがて、わがむすめをも娶らせた。