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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

……後で、三郎兵衛ひとりが見えぬと躁ぎ立てれば、はや、ここのお座所さえ、安全ではございません。疾く、お立ち退きの御用意を」

信雄は唇の色まで変えてしまった。三郎兵衛のいう半分も耳に入らないような眸のうごきである。恟々と早鐘をつくような胸が、じっと、黙っていられないように、

「そ、そして。……長門や、玄蕃などは、如何いたした。そちの他の者は」

「てまえは、てまえの料簡を以て、かく遁れて参りましたが、余人の心は分りませぬ」

「あれらも、誓書に名を書いたのじゃな」

「長門どの以下、残らず」

「そして、筑前の家中の者と、なお酒もりしておるのじゃな。見損うた。あれらは、犬畜生にも劣る奴らよ」

罵りつつ、彼は不意に、つと立って、後ろにいる小姓の手からわが太刀を引ッたくった。そして、あたふたと、法明院の外廊へ出て行くので、三郎兵衛もあわてて後を追いながら、殿々、どこへ渡らせらるるかと問うと、信雄は振り向いて声をひそめ、馬を馬をと頻りに急ぐ。

意を読んで――

「お待ちあれ」

と、三郎兵衛は、厩へ走った。

馬は名馬を持っている。「金槌」と名のある有名な鹿毛だ。信雄は、それに跨がるや、