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あかいろうそく

新美南吉童話集

新美 南吉

新美南吉『新美南吉童話集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:赤い蝋燭、ごん狐、狐、おじいさんのランプ、手袋を買いに、最後の胡弓弾き、童話における物語性の喪失。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,131 字 · 96 页

青空文庫

いつ弾く時でもそうであるように、木之助はもう胡弓に夢中になってしまった。木之助の前にあるのはもう仏壇というような物ではなかった。耳のある生物だった。それは耳をそばだてて胡弓の声にきき入り、そののんびりしたような、また物哀しいような音色を味わっていた。木之助は一心にひいていた。

門を出ると木之助は、道の向う側からふりかえって見た。再びこの家に訪ねて来ることはあるまい。長い間木之助の毎日の生活の中で、煩わしいことや冗らぬことの多い生活の中で竜宮城のように楽しい想いであったこの家もこれからは普通の家になったのである。もはやこの家には木之助の弾く胡弓の、最後の一人の聴手がいないのである。

木之助はすっぽりほっぽこ頭巾をかむって歩き出した。町の物音や、眼の前を行き交う人々が何だか遠い下の方にあるように思われた。木之助の心だけが、群をはなれた孤独な鳥のように、ずんずん高い天へ舞いのぼって行くように感ぜられた。

ふと木之助は「鉄道省払下げ品、電車中遺留品、古物」と書かれた白い看板に眼をとめた。それは街角の、外から様々な古物の帽子や煙草入れなどが見えている小さい店の前に立っていた。