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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

これでは「庭へまわれ」と云うのが当然かもしれない。それは菅田平野も認めるが、しかもやはり承服できない。たとえ乞食のように落魄していても侍は侍である。「御主人の大事について」と云うものを、庭先へまわすというのは無礼である。

「これだけでも黒藤というやつが品性劣等だということを証明している」と菅田平野は口の中で云った、「――これはよほどうまくもちかけないと、座敷へは通さないかもしれないぞ」

廊下へ白髪頭の老人が現われた。少しばかり腰が曲っている、着物も粗末だし袴は皺くちゃであった。ひと眼で家扶だということがわかる人態で、正しくそのとおりだった。そこで菅田平野は本気に腹を立てた。

「私は御主人に会いたいと申上げた」と彼は尖った声で云った、「――御主人のお命にかかわる大事だからわざわざまいったので、御主人に会えないのなら帰ります、なに、こっちはどうでもいいことなんだ」

彼は雨の中へ出てゆこうとした。家扶はあわてて呼びとめた。一命にかかわる、というのを聞き捨てにはできないだろう、「しばらく」といって、曲りぎみの腰をもどかしそうに奥へ去った。菅田平野は唾を吐いた。