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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

(温故之栞巻二十)

或はまた頼朝は葭を折って、箸に用いたとも伝えております。上総の畳が池は、八段歩に近い大池でありますが、一本も葭というものが生えません。それは昔頼朝公が、この池の岸で昼の弁当を使い、葭を折って箸にしたところが、あやまって唇を傷つけました。それで腹を立てて葭の箸を池に投げ込んだので、今でもこの池には葭が育たぬのだといっております。(上総国誌稿。千葉県君津郡清川村)

下総では、印旛郡新橋の葦が作という所に、これは頼朝の御家人であった千葉介常胤の箸が、成長したという葦原があります。やはりこの池を通行して昼の食事をするのに、葦を折って箸に使い、後でそれを地面にさして行くと、その箸に根を生じて、追々に茂ったといい、元が箸だから今でも必ず二本ずつ並んで生えるのだと伝えておりました。(印旛郡誌。千葉県印旛郡富里村新橋)

安房の洲崎の養老寺という寺の庭には、やはり頼朝公の昼飯の箸が成長したと称して、清水の傍に薄の株がありますが、これは前の話とは反対に、毎年ただ一本だけしか茎が立たぬので、一本薄の名をもって知られておりました。尾花は普通には何本も一しょに出ますから、何か特別の理由がなくてはならぬというふうに、考えられていたものと思われます。