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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

富士山その他の霊山の登り口または大きなお社に詣る路には、大抵はそういう場所があります。精進川と書くのが最も普通で、実際そこには水の流れがあり、参詣の人はその水で身を潔めたようですが、それが初めからの言葉の意味を、表したものであるかどうかはまだ確でありません。ただそこが神様の領分の堺であるために、いよいよ厳重に身をつつしみ、また堺を守る神を拝んだようであります。昔の関の姥神は、おおかた連れ合の爺神と共に、ここで祀られた石の神であったろうと、私などは考えています。それを仏教の方に働いていた人たちが、持って行って地獄に行く路の、三瀬川の鬼婆にしたのであります。それだからこの世にある諸国のそうずかには、多くは奪衣婆の像を祀ってあるのであります。

日本本土で一番北の端にあるのは、奥州外南部の正津川村の姥堂で、私も一度お参りをしたことがあります。東海道では尾張の熱田の町にある姥堂は、古くから有名なものでありました。これは熱田神宮の精進川に架けた御姥子橋、一名さんだが橋の袂にある御堂で、もとは一丈六尺の奪衣婆の木像が置いてあった為に、熱田神宮は御本地閻魔王宮だなどとおそれ多いことをいう者さえありましたが(紹巴富士見道記)、これは姥神のもとのお姿を、忘れてしまった人のいうことであります。