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にほんのでんせつ
日本の伝説
柳田 国男
「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页
高野の大師堂では、毎年四月二十一日の御衣替えに、大師堂の御像の衣を替えて見ると、いつもその一年の間に衣の裾が切れ、泥に汚れていました。それが今でも人に知られずこっそりと、この大師がわれわれの村をあるいておられる証拠だなどという人もありました。
とにかくに伝説の弘法大師は、どんな田舎の村にでもよく出かけました。その記念として残っている不思議話は、どれもこれも皆似ていますが、中でも数の多いのは今まで水のなかった土地に、美しくまた豊なる清水を与えて行ったという話でありました。東日本の方は大抵は弘法井、または弘法池などといい、九州ではただ御大師様水と呼んでおります。もとは大師様とばかりいっていたのを、後に大師ならば弘法大師であろうと、思う者が多くなったのであります。あんまり同じような話がたくさんにあって、いくつも並べて見てもつまりませんから、私はただ飛び飛びに今知っている話だけを書いて置きます。皆さんも誰かに聞いて御覧なさい。きっと近くの村にこういういい伝えがあって、それにはいつでも女が出てきます。その女がほんとうは関の姥様であったのであります。
普通は飲み水の十分に得られないような土地に、こういう昔話が数多く伝わっています。