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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

(若狭郡県志。福井県大飯郡青ノ郷村関屋)

近江の湖水の北にある今市という村でも、村には共同の井戸が一つあるだけで、それがまたすぐれて良い水でありました。これも弘法大師が諸国を歩きまわって、ちょうどこの村に来て一人の若い娘に出逢い、水が飲みたいといわれました。すると親切に遠いところへ汲みにいって、久しい間大師を待たせましたので、大師がそのわけを聴いて気の毒に思い、持っていた杖でそこいらの岩の間を突かれると、すなわち清水が湧き出たのがこの井戸であるといいます。(郷土研究二編。滋賀県伊香郡片岡村今市)

伊勢の仁田村では井戸世古の二つ井といって、一つは濁って洗濯にしか使われず、その隣りの井戸はまことによい水でありました。やはり老いたる女が洗濯をしているところへ、弘法大師が来て水を求めた時に、その水は悪いからといって、わざわざたいへん遠いところまで行って汲んで来てくれましたので、大師がそれは困るだろうといって、杖を濁り井のすぐ脇の地面にすと、そこからこのような清い泉が湧き出たというのであります。(伊勢名勝誌。三重県多気郡佐奈村仁田)

紀州は弘法大師の永くおられた国だけに、幾つかの名水が大抵はこの大師のお蔭ということになっています。