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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

という言葉が、この神の信仰について、古く行われていた名残であろうと思っています。子安という母と子との神は、今でも関東地方には方々に祀っています。気高い婦人が子を抱いた石の像であります。姥というのはただ女の人のことでありました。親の妹を叔母というのも、または後々叔母になるべき二番め以下の娘を、小娘のうちからおばと田舎でいっているのも、もとは一つの言葉でありました。それを老女のように考え出したために、しまいには三途河の婆様のような、おそろしい石の像になったのであります。仏教が日本にはいって来るより前から、子安の姥の神は清い泉のほとりに祀られていました。弘法大師が世を去ってから千年の後までも、なお新なる清水は常に発見せられ、いわゆる大師の井戸、御大師水の伝説は、すなわちこれに伴うて流れて行きます。生きて日本の田舎を今も巡っている者は、寧ろわれわれの御姥子様でありました。それだからこの神を路の傍、峠の上や広い野はずれ、旅人の喜び汲む泉のほとりにまつり、また関の姥神という名も起ったので、熱田の境川のおんばこ堂なども、もとはこういう姥と子を祀っていたからの名であろうと思います。