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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
為作は箸をぴたり止めた。
「はてな」と、云って耳を傾けた為作の耳へまた女の叫び声が聞えて来た。「ありゃあ、嫁の声じゃ、畜生、源吉は家におれ、外へ出ちゃいかんぞ」
為作はそう云い云い起ちあがるなり土間へおりて、壁へ立てかけてあった枴を持って戸外へ出た。源吉はびっくりして起きあがり室の中をうろうろ歩いた。
三
お勝は月の下で背の高い一本の短い刀を差した暴漢に帯の端を掴まれていた。お勝は牧野の家を出て帰りかけたところで、月が明るいので近路をして草原の中を通って来ると、其処の松の陰にその暴漢が待っていた。
小格子ではあるがお職も張って、男あつかいに慣れている彼女は、燃えあがっている対手の心を撫でつけるようにして、隙を見て逃げようとしたところで、対手は野獣の本性をあらわして、帯の端を掴んで引もどそうとしたのであった。
お勝は絶体絶命であった。引戻されて対手の一方の手が肩にかかれば体の自由を奪われなくてはならなかった。お勝は引戻されまいとして夢中になって争った。その機に帯の結び目が解けた。黒繻子の帯の一方は暴漢の手に掴まれたなりに、痩せぎすなすっきりしたお勝の体はくるくると月の下に廻った。