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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
見ると長い舌がだらりと垂れていた。餅屋は風呂敷に入れて首にくくりつけていた餅箱といっしょにつくばって気が遠くなった。
暫くしてやっと気がつきかけた餅屋が顫えながら見ると、白い衣を着た幽霊がその傍に蹲んで己の餅箱らしい箱を前に置いて何かむしゃむしゃと喫っていた。餅屋は動いて声を立てたならどんな目に逢わされるかも判らないと思ったので、呼吸もしないようにしてそっと見ていた。幽霊はその時手を餅箱の中に入れて、中から一つの餅を引っぱり出してそれを口に入れたが、小さな舌がべろべろと動いただけであった。
餅屋の頭にふとひらめいたものがあった。それは幽霊が人間のように餅などを喫うはずがないと云うことであった。餅屋の頭には余裕が出来て来た。餅屋はじっとその容子を見た。小柄な顔の眼のちかちか光る男であった。
「たしかに人間だ、人をおどして物を取る盗人だ」
餅屋はいきなりその男に跳びかかった。彼はびっくりして餅屋をふり放して逃げだした。
「盗人、盗人、盗人を捕えてくれ」
餅屋は何処までもその男を追いかけて往った。
白い衣を着た幽霊は町の博徒の一人であった。その悪漢は餅屋に捕えられて町の牢屋に入れられた。