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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
「……それに、もう夜が更けているし、それは困ったな」
と、侍は考えた。
「女子の一人旅では、こんなに遅くなっては、旅籠に往っても泊めてくれませんし、ほんとうに困っております」
「そうだ、どうかしなくてはならんが……」
「どうか簷の下で宜しゅうございますから、今晩だけお泊めなさってくださいますまいか」と、女はきまり悪そうに云った。
若い侍もそれを考えないではなかったが、独身者の処へ壮い女を伴れて往って泊めると云うことは、どうもうしろめたかった。しかし、それと云って女と別れて往くこともできなかった。
「そうだ、拙者の処へ往っても宜いが……」
「おさしつかえがございましょうか」
「別にさしつかえと云うことはないが」
「ではどうかお救けを願います」
「では往っても宜いが、拙者は独身者だから」と、侍は少し恥らうように云った。
女もちょっと顔を赧くしたが、その黒い眼には喜びが浮んだ。そして、二人はちょっと黙って立っていた。花は思い出したように散っていた。
やがて、侍は女を伴れて坂をおりた。草の茂った谷間の窪地には、小さな谷川が流れて、それにかかっている板橋が見えていた。その橋を越えるとむこうは台地に建てた山屋敷で、その橋の袂では折おり山屋敷に入れられている重罪人が死刑に処せられた。