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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

道の右側は並んだ人家の下の低い崖で、左側は勾配の緩い畑地であったが、其処には熟した麦があり蜀黍があり、麻があり柿の木があった。

お種の往った家は半丁ばかり離れていた。其処は家の前に蜜柑や枇杷を植えてあった。お種はその果樹園の中を通って往き、裏の馬小屋と雪隠の境にたてた五右衛門風呂の口で、前に来ている三人ばかりの人の順じゅんに入るのを待っていた。

「今度はお種さんの番じゃ、はよう入るがいい、良い人が何処ぞで待ちよる」

お種の後から来ている老人がからかいながら云った。すると風呂桶から出ようとしている婦が云った。

「お種さんのような女を待たいで、何人を待つもんか、お種さんはよう来い」

お種はそこで湯に入って帰りかけた。霧がかかって月の光がぼんやりしていた。門口の果樹園まで帰ったところで、其処の暗い処からひょいと出て来た者があった。

「お種さん」

それはまぎれもなく猪作の声であった。お種は厭な者に逢ったものだと思った。

「お種さん、そんなに嫌うもんじゃないよ」

お種はしかたなしに足を止めた。

「嫌やせんよ」

「嫌わなけりゃ、私の話を聞いてもらいたい」

背のずんぐりした角顔の壮佼の顔があった。