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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
飛脚は其処へ妊婦を置くことに定めて、腰にさしていた刀で、その傍から数多の葛を切って来て檜の樹の上へあがって往き、それを枝から枝に巻きつけて妊婦と己と二人でおられるようにした。そして、妊婦を負ってその上にあげた。
何時の間にか夜になって林の下は真暗になったが、十日比の月が出て空は明るくなった。
お産の時刻が迫って来て妊婦は呻き苦しんだ。飛脚は背後から抱きかかえるようにして女に力をつけてやった。飛脚はまた女の背にあった包を解いたり、己の両掛の手荷物を開けたりして、その中から有りたけの着更を出して用意をした。
暗い中に嬰児の泣き声がして女はお産をしたのであった。飛脚は嬰児を抱きあげてそれを衣服で包んだ。嬰児は無心に手の中でぐびぐびと動いていた。
と、何処からともなく犬の吠えるような声が聞えた。飛脚はふと耳を傾けた。吠えるような声はまた聞えて来た。その声ははじめのような一疋の声ではなかった。それは水に投げた石の波紋が四方に広がって往くように、その声は次第次第に吠え広がって来て、其処にも此処にも聞えだした。それは、狼の声であった。
飛脚は女の体を直して背を葛に寄せかけ、仰向けに蹲んでいられるようにして、嬰児をその懐に入れ、上から一枚の衣服をかけてやった。