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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
尾花川
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页
「そんなに仰せられましては、わたくしなんとお返辞を申上げてよいやらわかりませぬ、けれど、……」幸子はふかく頭を垂れ、ながいこと悲しげに自分の膝をみつめていた、しかし「おれにも考えがある」という良人の言葉はぬきさしならぬ意味をもっている。幸子はそのひと言で追い詰められるように思い、やがてしずかに語を継いだ、「……けれど達てのお言葉ゆえ申上げます。去年の極月はじめでございましたか、長州藩の広岡さまが二日ほどご滞在あそばしました」
「広岡は泊った、それで……」
「わたくしおそばでご接待を致しましたが、お話が禁中御式微のことに触れました」
幸子はそこで両手を畳へおろし、太宰は正坐して衿をただした。
「かずかずおそれおおい事のなかに、……さる年のはじめ、御祝賀の賜宴に臨御あらせられた主上には、御吸物の中より御箸をもって焼き豆腐をおとりはさみあそばされ、ことしの鶴はこれぞ、さよう仰せ下されましたと……」ぐっと喉へつきあげてくるものがあって幸子はしばらく言葉がつづかなかった、「……毎年、御佳例の鶴の御吸物が、大膳職においてどのようにも御調進奉ることがかなわず、申すもおそれおおき限りながら、焼き豆腐をもって鶴にかえ奉ったとのことでございました。