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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

尾花川

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页

青空文庫

五

禁中におかせられてさえかくばかりの御艱難をしのばせられるおりから、下賤のわれらが酒肴の吟味などとは……口にするだに恥じなければならぬことでございました。まして今は非常のときでございます、ひともわれも、できるだけ費えをきりつめ、あらゆるものを捧げて王政復古の大業のお役にたてなければなりません。おこがましい申しようではございましょうけれど、わたくしそう存じまして……」

五

広岡※(「日+折」、第4水準2-14-2)の話は太宰もまざまざと記憶にある、そのとき身内に燃えあがった忿怒の情も忘れない、だが今おなじことを妻の口から聞き、かれは骨を噛み砕かれるような悔恨にうたれた。

――禁中御式微のことを申上げながら、おのれらは酒をくらい美食を貪っていた。

その事実にはいかなる抗弁もゆるされない、志士であることは特権ではないのだ、寧ろどんな人間よりも謙虚に、起居をつつしみ、困苦欠乏とたたかって、大業完遂の捨石にならなければならぬ筈だ。太宰は低く呻いた、……そして暫くは面があげられなかった。

「幸子、おれは明日ここを立つ」なにか心に期したというように、やがて太宰は妻をかえりみながら云った、「こうして湖畔に安閑としているときではなかった、明朝……泉たちといっしょに京へのぼる、これ以上はなにも云えない。