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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

二十三年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,170 字 · 22 页

青空文庫

に気づいた。望みが協うにしろ協わぬにしろ、とにかく松山へ行くべきだ、こんな遠隔の土地にいては纏まる話も纏まらなくなる惧れがある、彼はそう思ったのですぐに残っている仲間と相談をした。みんなその意見には頷いた、けれどもそれでは行こうと決めるには、四国松山は余りに遠すぎる、――行ってみてもし不調に終ったら、……そう考えると躊躇せざるを得なかった。靱負にはそういう迷いはなかった。もし不調に終るようだったら武士をやめる、蒲生家のほかに奉公はしたくはない、彼は初めからそう決心していたのである。

以上のようなゆくたてがあり、彼は単独で松山へ行くことに決めた。そしてその仔細をよく語っておかやに暇を遣ろうとした、おかやは肯かなかった。「松山へお供させて頂きます」強情にそう云い張って動かなかった。「できればそうしたいのだ」靱負は懇ろに訓した、「然し松山へまいってもいつ仕官が協うか見当もつかぬ、貯えも乏しく、浪人の身の上では、おまえの給金さえ遣り兼ねる時が来るだろう、ましておまえはもう二十という年になっている、家へ帰って嫁にゆくことも考えなくてはいけない、この場合それが女としては正しい道なのだから」