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にほんぶんかしかん

日本文化私観

坂口 安吾

「現代文学 第五巻第三号」1942(昭和17)年2月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,816 字 · 43 页

青空文庫

社殿の前に柵をめぐらした場所があって、この中に円みを帯びた数万の小石が山を成している。自分の欲しい金額と姓名生年月日などを小石に書いて、ここへ納め、願をかけるのだそうである。五万円というものもあるし、三十円ぐらいの悲しいような石もあって、稀には、月給がいくらボーナスがいくら昇給するようにと詳細に数字を書いた石もあった。節分の夜、燃え残った神火の明りで、この石を手に執りあげて一つ一つ読んでいたが、旅先の、それも天下に定まる家もなく、一管のペンに一生を托してともすれば崩れがちな自信と戦っている身には、気持のいい石ではなかった。牧野信一は奇妙な人で、神社仏閣の前を素通りすることの出来ない人であった。必ず恭々しく拝礼し、ジャランジャランと大きな鈴をならす綱がぶらさがっていれば、それを鳴らし、お賽銭をあげて、暫く瞑目最敬礼する。お寺が何宗であろうと変りはない。非常なはにかみ屋で、人前で目立つような些少の行為も最もやりたがらぬ人だったのに、これだけは例外で、どうにも、やむを得ないという風だった。いつか息子の英雄君をつれて散歩のついで僕の所へ立寄って三人で池上本門寺へ行くと、英雄君をうながして本堂の前へすすみ、お賽銭をあげさせて親子二人恭々しく拝礼していたが、得体の知れぬ悲願を血につなごうとしているようで、痛々しかっ