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めいあんよめもんどう

明暗嫁問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,984 字 · 43 页

青空文庫

よう」

「せっかくだから今日は引かぬでもよい」そう云いながら、老人はむっとしたようすでその香物をひときれ口に入れた、「武家には色いろきびしい作法がある、それはひとつ間違うと腹をきらなければならぬほど厳しいものだ、たとえば、……この香物はそのほうが漬けたものか」

「はい、まことに不調法でございます」

「うん、うん」老人はまたひときれ取った、びっくりするほど美味いのである、勘太夫は元来が香物嫌いで、妻の存命ちゅうも、かつていちどこれは美味いと思って食べたことがない、ところがいま食べるその香物は、歯当りといい味といい恐しく美味いのだ、しかもいかにもよく茶と調和しているので老人ひそかに舌を巻いてしまった、「ところで、つまり、そういうわけで、いや、実は直二郎がこんど出府するに当って、そのほうを妻にして欲しいと云い置いてまいった」

お笛はさっと赤くなり、両手を膝に置いてふかくうなだれてしまった。

「しかしいま申したとおり武家には厳しい規式作法がある、近来は商家から嫁を迎える例も無いではないが、それさえ極めて稀なことだ、ましてそのほうのように、いちど芸妓づとめなどした体では正式の婚姻などは不可能だといってもよいだろう、しかしそれとも神かけてできないというわけではない、ないけれども直二郎は高滝家の跡目を継ぐ