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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

彼が上京したときは今の光子と同じ十八であった筈だが、そのころ彼が学んでいた書物はとても光子の理解できない難解なもので、風守の筆跡の見事なことも驚嘆すべきものであった。コヨリでとじた何冊かの稿本があり、そこに風守の自署があって、彼の作った詩文であった。そこに朱筆が入れてあるのは祖父の手であるらしい。年月日が記してあり、十一二から上京までの作品であった。十一二の作品すらも読みこなす力は光子にはなかったが、理解しうる部分だけでも凡庸ならぬ天才が閃めいているように見うけられた。

「これがキチガイであろうか!」

光子の胸をつきあげた思いはその一事である。なるほど、テンカンというものはヒキツケを起した時のほかは異常がないということだ。さすがに本家の後嗣たる風守である。人デンカンという奇妙な業病にとりつかれても、衆に秀でた天才にめぐまれているのであろう。しかし、ヒキツケを起さぬ時には天才とも云うべき風守を常時座敷牢に閉じこめるとは何事であろうか。他の人ののぞくこともできない奥庭もあるし、他の人の踏みこめない多くの部屋もあるのに、なぜ座敷牢に入れなければならないのだろう。