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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

「なぜ座敷牢が必要なの?」

と、光子はボダイ寺の英専に訊いたものだ。老僧は苦悶を隠してしばし沈黙していたが、思いきって答えてくれたのである。

「それはな。これをちかごろの言葉で夢遊病と申すそうな。寝たまに起きていろいろのことをおやりになる。そういう奇病がござるために牢にお入れ申したものじゃ。東京のお居間も同じことでござろう。日中の強い光がお毒じゃそうな。強い光が目に入ると心悸がたかぶって良くないそうで、格子の外には黒い幕をはりめぐらしておいたものじゃ。日中も夜のように真ッ暗で、小さな隙間からわずかの光をとり入れて用を弁じていたものじゃて。おいたわしいことじゃ」

という話であった。格子の外の黒い幕はすでに取り払われていたが、英専はそれを知らぬらしく、それも光子の目にとまったとみて打ちあけたようである。

この村の伊川良伯という漢方医が多久家と共に東京に移住していた。先祖代々多久家の侍医の家柄であるから、主家と一しょに移住したのであるが、新式の西洋医学が起り、大博士や大家の多い東京に、今もって田舎の漢方医に脈をみてもらわねばならぬ風守が気の毒に思われた。