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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

光子は思わずカッとして、

「あなたは心底からの坊さんね。世の中をそんな風にみてらして、それで御自分が偉いとでも思ってらッしゃるのね」

英信はうるさそうに立ち上って、

「生きているのはやさしいが、死ぬのはむずかしい」

ききとれないような低声で、しかし、たしかにそうハッキリと呟いたのである。そして光子に目もくれず、立ち去ってしまった。

光子はこのテンマツを誰にも語らず秘しておくべきであったかも知れない。しかし、漢方医の良伯に偶然二人だけで出会わすことになったのは運命というものであろう。この漢方医は悟りすました坊主のように気がおけなくて、一向に威厳もないし、脈のとり方もオボツカなくて頼りないこと夥しいが、明るく陽気で、どんな気むずかしい人の心も解くようなところがあった。

光子は良伯のほかには誰の気配もないのを見て、自然につりこまれてしまい、

「風守さまが御病気だそうですけど、お悪いのでしょうか」

「風守さまの御病気は昔々大昔からのことですよ」

その返事がとぼけすぎバカにされたような気がして光子はやや腹を立てて、

「心配でたまらなくッてお訊きするのに、そんな返事をなさるの卑怯だわ。