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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
09 その八 時計館の秘密
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,134 字 · 43 页
正二郎の面前でこうコンコンと言いふくめ、また正二郎には忠義の代りに妾宅で死水をとってあげていただきたいと頼んでやった。下働きの小女も一人つけて、ここに一軒の妾宅ができた。
さて妾宅を構えてみると、駒子はやさしく親切で可愛らしく、正二郎にはまるで欠点というものが分らないから、去る日も来る日も夢のようにうれしいばかり。女を知らない中年の男が女に溺れるとダラシがない。酒の味も覚え、お龍をとりまきの老妓役にして差しつ差されつの食卓の賑やかさ、たのしさ。正二郎はもはや寸刻も離れているのが堪らなくなり、妾宅をひきあげさせて、その三人をそっくり時計館へ移り住ませた。
ところが、ある晩のことである。ふと寝物語りに、
「私にはお母さんがいるんですけど……」
と、別にさしたる理由もなく、何のハズミか口をすべらしたのは、これを運命というのであろう。正二郎のマゴコロが、駒子の心に距ての垣というものを失わせたせいかも知れない。
「身寄りがないときいていたが、お母さんが生きているのか。なぜ早く打ちあけてくれないのだね」
「だって、あんまりひどい暮しをしているものですから」
「娘を芸者にだすほどだから豊かに暮している筈はないさ。