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ひるのはなび
昼の花火
山川 方夫
「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页
それは、とても素晴らしかったわ。……とても、とても素晴らしかったわ。……
彼は思った。しかし僕自身、後日、この女と過した季節を振り返って、そこに花火の夜をしか思い出せないのではないだろうか。いや、僕の、彼女への愛、僕が彼女に見ていたもの、それこそが一つの花火ではないのか。……年上のこの女との一年、僕は、じつは空中楼閣のような、美しい数多の、しかしただ一つの花火だけを、眺めつづけてきたのではなかったのか。いまさき信じた一つの愛、それも、地上をはなれた虚空の中でのみ花をひらく、美化された一つの空費、ただ初夏の夜空にのみ存在する、はかない架空の仇花にすぎないのではないのか。
場内のざわめきが、そのときいちだんと高くなった。拍手。口笛。叫喚。湧き起るさかんな声援のうちに、選手たちが颯爽とダッグ・アウトから飛び出す。向いあって整列して、礼を終える。
プレイ・ボール。いろめきたつ観客の、海のような底深い喧騒にかぶさり、またしても校歌の合唱がはじまる。
試合開始のサイレンといっしょに、
「さあ、試合がはじまったよ。おまちかねの」
わざと威勢のいい口調で、彼はいった。