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つきのまつやま
月の松山
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页
と桂が云った、「西秋さまには罪はありません、桂が此処へ来て下さるように頼んだのです」
「家へお入りなさい」孝也が叫んだ。
「どうか聞いて下さい」泰二郎が云った、「貴方は誤解しているんです、密会なんてとんでもない、私たちはいま」
「西秋さま」と桂が遮った。
泰二郎は口をつぐんだ。それは云ってはならないことであった。孝也は黙って二人を見ていた。
ごく短いあいだではあったが、息苦しく気まずい沈黙が、三人の上にのしかかった。
「家へお入りなさい」孝也が桂に云った、「人に見られないうちにお入りなさい」
「いらしって下さい」泰二郎も桂に云った、「あとは大丈夫ですから、どうか」
桂は母屋のほうへ去った。四、五間ばかりゆくと泣きだしたようであるが、そのまま小走りに去っていった。桂が去ってしまうと、孝也も歩きだした。
「どうか誤解しないで下さい」泰二郎は孝也についてゆきながら云った、「お嬢さんはいうまでもないし、私がそんなことをする人間かどうか知っていらっしゃるでしょう」
「おれが知っているって」
「お願いです」泰二郎は云った、「夜こんな処で話していたのが悪かったんですが、わけがあってほかにしようがなかったんです」