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つきのまつやま
月の松山
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页
「なぜだ」と孝也が訊いた。
「理由はおわかりでしょう」宮原忠兵衛が云った、「西秋さんのようすを見て下さい、これではあんまりひどい、私たちはこれ以上西秋さんを疲らせるのはごめんです」
「よせ」と泰二郎が云った、「おれは疲れてはいないぞ」
「いや私たちはもうごめんです」
「よく聞け」と孝也が云った、「おまえたちはこの十月に奉納試合のあることを忘れたのか」
「知っています」と宮原忠兵衛が答えた。
「五年に一度の奉納試合は、世間に鞍馬古流の正統を示す大切な行事だ、ことに先生が御病気だから、万一にも不覚なことがあっては申し訳が立たない、今年こそ、どんなことをしても勝たなければならないんだ」
「しかしそれは」と益島弁三郎が云った、「その試合には御師範代がお出になるのでしょう」
「出るのは腕だ、席順ではない」
「御師範代ではないのですか」
「先生が御丈夫なら先生の御指名がある、しかしいちばん腕の立つ者が試合に出ることに変りはない」と孝也は云った、「西秋は席次だけでなく腕が立つ、西秋は試合に出るための稽古をすべきだ、試合に出るための稽古をする責任がある筈だ」
「それで理由がはっきりしたろう」