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げつめい
月明
豊島 与志雄
「新小説」1921(大正10)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页
俊子が何処かに立ってるような気がした。
薄曇りの佗びしい夕方だった。かさかさと枯葉の音がする。それが胸にしみ渡った。耳を澄していると、静に表の格子を開く音がした。それから一寸間を置いて、喘ぐような声で、
「急いで来たものだから息が切れて。」
「御免なさい、ふいにお呼びして。」
「いいえ。そんなにお悪いの。」
「それがねえ……、」
とだけ聞えた。
玄関でひそひそ話してるのは、姉と俊子だった。
彼は我を忘れて立ち上った。頭がかっとして胸騒ぎがした。まごまごしてる所を、玄関から上ってくる俊子とばったり眼を見合った。どうにも出来なかった。頭を垂れて、其処に坐った。熱い塊りが胸の底からこみ上げてくるのをじっと堪えた。
俊子はつかつかとやって来た。
「御病気ですってね。ちっとも存じなかったものですから……。」
それを姉が側から引取った。
「いえ、病気というほどのことじゃないのよ。神経衰弱ですって。」
「そう。」
一寸まごついた其場しのぎの返事をして、姉と意味ありげな目配せを交した後に、また彼の方へ向いて、
「海は頭に余りよくありませんのよ。私も帰ってから四五日の間は、何だかぼんやりしていましたわ。