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ほんいんぼう・ごせいげんじゅうばんごかんせんき

本因坊・呉清源十番碁観戦記

坂口 安吾

「読売新聞 第二五六九二号、第二五六九三号」1948(昭和23)年7月8日、7月8日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,884 字 · 6 页

青空文庫

けだし、呉氏がまだ五段のころ、本因坊秀哉名人と何ヶ月にわたって骨をけずるような対局をした。そのとき、秀哉名人が封じ手のあと、一門とはかって、次の手を考えて妙手を発見したとやら、風説があるのである。

そんなことがあるから、勝負に必死の呉氏、言葉は静かであるがゆずらない。

自動車で家へ戻って、玄関から中へ上らず、忘れ物を受けとって、すぐ戻る、と呉氏が深く信頼している読売の黒白童子を立会人とし、自動車に同行せしめることゝして、呉氏承諾。

この車に同車して僕も一応家へ帰る。本因坊に、今日の勝負の感想を問うと、まだ分りません。二日目の午後、三日目の午前中が勝負どころになるでしょうと、答えた。

翌朝八時に、もみじ旅館へ到着すると、ようやく呉氏が起きてきたところだ。食事です、という女中の知らせにも拘らず、食卓へ現れず、しきりに荷物をゴソ/\かきまわしているから、さては持参の卵とリンゴを探しているな、と女中が察して、

「卵は半熟が用意してございます。リンゴもおむき致しましょうか」

「えゝ、朝はね」

と、うなずいて、食卓についた。ミソ汁と卵とリンゴ、ゴハンは朝はたべない。