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むらいちばんそうけいせん

村一番早慶戦

佐々木 邦

「冨士」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,468 字 · 34 页

青空文庫

今度は僕も積極的に努力した。鶴子さんも明らかに傾向を示してくれた。前の主観的感銘とは違う。僕が遊びに行くと必ず出て来る。

「兄さんは慶応でも、私は早稲田よ。早稲田ファンよ、野球でも何でも」

と頼もしいことを言う。或日、東金君を訪れたら、不在だったが、間もなく帰るから上って待つようにと鶴子さんが気を利かしてくれた。僕は東金君の部屋へ通って、鶴子さんを相手に少時話し込んだ。障子が開いたから、東金君が帰ったのだと思ったら、お父さんだった。

「やあ。一夫さんですか?」

と驚いた風をして、

「鶴子や、お前は彼方へ」

と命じた。それからむずかしい顔をして席について、

「一夫さん、あなたは大学教育を受けていらっしゃるんですから、礼儀作法は一通り御存じでしょう?」

「はあ」

「金一の留守中に上り込んで鶴子とお話しになっちゃ困りますよ」

「…………」

「気をつけて下さい。世間体があります」

「はあ。御懇意に願っているもんですから、つい金一君を待つ積りで上らせて戴きました。申訳ありません」

と僕はあやまって、這う/\の体で逃げて来た。以来、東金家へはもう寄りつかない。但し東金君はその晩訪ねて来て、お父さんの無礼を詫びたのみならず、友情を誓った。