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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

兵馬はすっかり無口になった、酒も飲まなくなった。小房の方が却って見兼ねたように、

「今夜はお酒を召上りません? お美味そうな鶫が買ってあるのですけど、……なんだか沈んでいらしって淋しいわ」

なるべく明るい調子で云っても、

「酒は止そう」

と答えは毎も同じだった。

こんな状態を続けていてはいけない、事情をよく話して妹にはっきり諦めをつけさせなければと、兵馬はなんども思うのだが、……ふとすると庭に佇んで、まだ実の落残っている柿の木の梢を、しょんぼり見上げていたりする小房の姿を見ると、とてもそんな残酷な話を切出す勇気は持てなかった。

霜月に入った或る日。

兵馬は城中の遠侍で、近習番の者が四五人して辰之助の噂をしているのを聞いた。

「そいつは思い切った左遷だな」

「大鳥嶽の鉱山役所とは牧野も気が付くまい、あれだけ藩の人望を背負っていたのが詰らぬことになったものさ」

「結局……慎むべきは女だよ」

「正式に願いも出さなかった女に子を生ませ、今になって妻子の届出をするなんて下手なことをしたものだ、聞けば召使いだということではないか、……くだらぬ」

「旨く始末をすればなんでも無かったのに」