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かき
柿
山本 周五郎
「現代」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页
「才子案外に馬鹿正直だぞ」
兵馬はさすがに驚いた。
――辰之助が大鳥嶽へ左遷される。
大鳥嶽とは羽前と越後との国境にある銀山で、庄内藩が幕府から預っているものだが、その役所詰になる者は老朽か無能者と相場が定っていた。
「なにしろ岡島国老が真先にそう主張したというのだから、もう牧野の一生もこれでけりがついたも同様だ」
「お蔭で代りにのし上る者が出来るだろう」
「運不運は分らぬものだ」
そこまで聞くと、もうあとは耳を蔽いたい気持で兵馬は立った。
国家老の岡島大学は牧野家の遠縁に当り誰よりも篤く辰之助の引立て役になっていたのである、その大学が先に立って左遷を主張したとすれば、辰之助の将来は全く葬られたも同じことだった。
――然し、自ら招いた事だ。
兵馬はそれ以上なにも考えまいとした。
――小房にとってもその方がいい。
そう思った。
それから四五日経って、辰之助が大鳥嶽へ出発したということを聞いた日の夕景である、……兵馬が下城して来ると、小房が待ち兼ねていたように、
「……お客来でございます」
と囁くように云った。
「客だと、誰だ」
「女の方ですわ、兄上さまにお会いしてから申上げると云って、お名前も用事もおっしゃいませんの」