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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
お医者の云った事は、お君に解らなかったけれ共、十中の九までは、長持ちのしない、骨盤結核になって、それも、もう大分手おくれになり気味であった。
流石のお金も、びっくりして、物が入る入ると云いながら翌日病院に入れて仕舞った。
いよいよ手術を受ける時になって、病気について、何の智識もないお君は、非常に恐れて、熱はぐんぐん昇って行きながら、頭は妙にはっきりして、今までぼんやりして居た四辺の様子や何かが、はっきりと眼にうつった。
胸元から大きな丸いものがこみ上げて来る様な臭いの眠り薬、恐しげに光る沢山の刃物、手術のすみきらない内に、自然と眠りが覚めかかってうめいた太い男の声、それから又あの手を真赤にして玩具をいじる様に、人間の内実をいじって居た髭むじゃな医者の顔、あれこれと、自分が無我夢中になる前五六分の間に見た事聞いた事が、それより前にあった百の事、千の事よりもはっきりと頭に残って、夜中だの、熱のある時は、よく、此の恐ろしい様子にうなされて居た。半月ほど、病院のどっちを向いても灰色の淋しい中に暮して、漸々、畳の上に寝る様になってからまだ幾日も立っては居なかった。