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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

けれ共、絶えずせせこましい気持になって居るお君には、一日の時間も、非常に長い、非常に不安心なものであった。

お君は、思い出に一杯になった体を、溜息と一緒に寝返りを打たして、今までとは反対の壁側に顔を向けた。

「母はんは、苦労ばかりお仕やはっても、いい智恵の浮ばんお人やし、達やかて、まだ年若やさかい、何の頼りにもならん。

たよりにならない、母親や弟の事を思って、お君はうんざりした様な顔をした。

誰か一人、しっかりとっ附いて居て安心な人を望む心が、お君の胸に湧き上って、目の前には、父親だの母、弟又は、家に居た時分仕事を一緒にならって居た友達の誰れ彼れの顔や、話し振りがズラッとならんだ。友達共は、皆相当に、幸福に暮して居るのに、自分は今どうして居るのだろうと思うと、薄い眉根にくしゃくしゃな「しわ」を寄せて、臭い様な顔付をした。

そして、さのみ気が乗ったでもない様にして、枕元の小盆の傍に小寒く伏せてあった雑誌を取りあげた。お金が小やかましいので、日用品以外の物と云ったら、自分の銭で買う身のまわりの物まで遠慮しなければならない中を、恭二がお君のために買って来てくれたたった一冊の雑誌である。