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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
「ああなまじ法律を喰いかじった人は、なみなみの手では行かれんもんでなあ。
あの人は、なかなかうまい事考え居る。
証書を反古にするつもりで年限などを忘れさせる様にしとるんや。
東京の方へも云うてやって、委任状もろうて、証書の書き換えをさせんならん。
なあ栄蔵はん、
この村も、金臭くなって仕舞うた。
はたして、もう一寸の間で、証書が口を利かなくなりかけて居た。
馬場と栄蔵は、その書き換えにも相当骨を折った。
証書は書き換えても、かんじんの金のしがくは何もしなかった。
お金はお金で、時々太い、うねうねした文字で、
あなたの御手ぎわで、さぞその方の話は甘く出来る事と存じ候。
こちらも先だっての金は、とうに、ちっともござなく、御承知の事とは思いますが、近い内に、あとの金を御送り下され度候。
などと云う葉書をよこしたりした。
いかにも人を馬鹿にした云い草や又、あまり見っともいい事でもないのにむき出した葉書でなぞ寄すのがたまらなく気にさわった。
一人ほか居ないこの村がかりの郵便配達が、さぞ可笑しい顔をしてあの一本道をよみよみ持って来た事だろうと思うと、他人に知られずにすむべき内輪の恥がパッと世間に拡がった様な気がして、居ても立っても居られない様になった。