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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
早速、その返事のかわりに、
あんな事を葉書でよこす馬鹿が何処にあるなどと云ってやったりした。
お君からの手紙は、事々に親を泣かせた。
辛い事を堪え堪えして居る様子が、たどたどしい筆行きにあらわれて、親の有難味が始めて分ったなどと書いてあった。
お君の手紙のつくたびに栄蔵は山岸の方の話をあせった。
けれ共、小意志の悪い若主人は、栄蔵があせればあせるほど、糞落附きに落ついて口でばかり法律臭い事を云って、折々は却って栄蔵の方がおどかされて帰って来る様であった。
栄蔵は、日暮方から山岸に出かけて、帰途についたのはもう日暮れ方であった。
田圃道をトボトボと細い杖を突いて歩いて行った。
あの小意志の悪い若主人が机を前にひかえて、却って栄蔵をせめる様な口調でいろいろ云う様子を思いながら、遠くの方の森の上を見ながら歩いた。
寒い風が、浪の様にドーッと云ってかぶさって来る。道の両側の枯草が、ガサガサ気味の悪い音をたてて、電線がブーン、ブーンと綿を打つ時に出る様な音をたててうなる。
何の曲りもない一本道だけに斯うした天気の日歩くのは非常に退屈する。
いつもいつも下を見てテクテク神妙に歩く栄蔵も、はてしなく真直につづく土面を見あきて、遠い方ばかりを見て居た。