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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

非常な喜びが心の中をはね廻りながらその陰には、口に云われない不快な感じがあった。

その不思議な感情を押えるために達が入って来た時栄蔵は、額をしわだらけにして目を瞑って居た。

父親が眠って居るのかと思ってそうっとまた出て行こうとする達を、

「達か、

戻ったんか。

と呼びとめた。

思いがけなかったので、達は少しあわてながら又元に戻って、

「只今。

どんななんですか、

おっかさんに手紙をもらったのでびっくりして来ました。

と云って父のげっそりとして急に年とって見える顔をのぞいた。

「ほんにそうなんか、

出されて戻ったんやないか。

達は真赤になって、母親に話した通り父の納得の行くまで弁解した。

「そうか。

そんならいいけど、

先達っての事があるさかいな、

気をつけんといかん。

栄蔵は、機嫌をなおして達の持って来たリンゴのさくさく舌ざわりのいいのを喜んで、お節の止めるまで食べた。

リンゴを食べながらも栄蔵は、どうしても達が只戻ったのではなさそうだと想った。

いかほど考えても一週間十日の暇のもらえる筈もなく、お節が来いと云ってやる筈もない。

彼は巧く私を胡魔化す積りと見える。