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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

女をひとりも置かず、侍もごく僅かで、学問も他の稽古もなく、七人のお相手と遊び暮していればよかった。――その下屋敷で、悠二郎は巧みに機会をつかみ、若君を外へぬけ出させたのであった。

そこでは万事がゆるやかだった。養育係としては勘右衛門がいるだけだし、御殿の造りも、塀がこいも簡略で、隠れて出入する隙は幾らでもあった。たいていは若君に「気分が悪い」と云わせ、寝所へはいるふりをして出かけるのである。それにはお相手のなかの原精一郎というのを身代りに寝所へ寝かして置いた。精一郎はずぬけたくいしんぼうで、いつも一袋の菓子で買収することができたのである。――悠二郎はぬけ出るとまず舟仙へゆき、そこで若君にも着替えをさせ、そうしてほうぼう伴れまわった。舟仙の者には若君を友達の信太郎だと紹介し、かれらの前では「おい信ちゃん」などと呼んでみせた。若君のほうにはこっちを「悠公」と呼ばせ、それで幾分かは階級をつけるつもりだったが、どうしても若君はそれに慣れず、しまいまであいまいに「おい」とか「ちょっと」とかいうふうにしか呼ばなかった。

悠二郎は小梅の勝んべを撲るところもみせた。