轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

その日は麹町の住居に吉本さんを訪ねて見る初めての時でもあった。吉本さんは事務室用の大きなテエブルを閑静な日本間に置いて、椅子に腰掛けながら捨吉に逢ってくれた。翻訳の仕事も出してくれた。

「嘉代さん」

と主人が細君を呼ぶにも友達のように親しげなのは、基督教徒風の家庭の内部の光景らしい。細君は束ねた髪に紅い薔薇の蕾をしているような人で、茶盆を持ってテエブルの側へ来た。その時吉本さんの紹介で、捨吉はこのバアネット女史の作物の訳者として世に知られた婦人をも初めて知った。

「恋愛は人生の秘鑰なり、恋愛ありて後、人世あり。恋愛を抽き去りたらむには人生何の色味かあらむ。然るに最も多く人世を観じ、最も多く人世の秘奥を究むるという詩人なる怪物の最も多く恋愛に罪業を作るは抑も如何なる理ぞ」

これは捨吉が毎月匿名で翻訳を寄せている吉本さんの雑誌の中に見つけた文章の最初の文句だ。捨吉は最初の数行を読んで見たばかりで、もうその寄稿者がどういう人であるかを想像し始めずにはおられなかった。彼は薄い桃色の表紙のついたその雑誌の中を辿って見た。

「思想と恋愛とは仇讐なるか。安んぞ知らむ恋愛は思想を高潔ならしむる慈母なるを。