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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

菅の話の中には、ある女学校の舎監を勤めるという一人の叔母さんの噂もよく出て来る。菅の多くの従姉妹の中には東京や横浜のミッション・スクウルを既に卒業したものもあり、まだ寄宿舎の方で学んでいるものもある。菅の周囲には、これほど女が多かった。又た基督教に縁故が深かった。ここでは聖書を隠して置くような必要が無い。ここでは人知れずささげる祈祷でなくて、叔母さんから子供まで一緒にする感謝である。クリスチャンとしての菅の信仰が何となく自然なのも謂れのあることだ、と捨吉は思った。捨吉はまた、厳格な田辺のおばあさん達の許で育てられた自分と、可成大きくなるまで従姉妹と一緒に平気で寝たという友達との相違を思って見た。

友達を誘って、捨吉は一緒にその築地の家を出ようとした。

「時ちゃん、お出掛け?」

従姉妹の一人が玄関のところへ来て声を掛けた。

「ああ、青木君のところまで」

と、菅は出掛けに答えた。多勢いる女の児はかわるがわる玄関まで覗きに来た。

高輪東禅寺の境内にある青木の寓居を指して、捨吉は菅と連立って出掛けた。

「青木君なんかですら、西洋人の手伝いでもしなけりゃ、やって行かれないのかねえ」