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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

彼女等の身持は堅かった。そして聖武天皇は、当然孤独な性格をもつ女支配者の威厳に就て、見馴れるままに信じこみ疑ってみたこともなかった。彼は全然知らなかった。祖母も伯母も、女としての自由意志が殺されていたことを。彼女等は自ら選んで犠牲者に甘んじていた。彼女等の慾情は首皇子を育てることの目的のために没入され、その目的の激しさに全てがみたされていた。彼女等は家名をまもる虫であり、真実自由な女主人ではなかったのだということを。

この二つの女主人の、根柢的な性格の差異を、聖武天皇はさとらなかった。

*

新女帝の治世の始めは、まだ存命の父母に見まもられて、危なげはなかった。政治はむつかしいものではなかった。ただ全国的な大きな田地を所有する地主であり、その毎年の費用のために税物を割当て、とりあげるのが政治であった。

上皇は剃髪して法体となり、ひたすら信仰に凝っており、女帝は更に有閑婦人の本能によって、その与えられた大きな趣味、信仰という遊びの中で、伽藍に金を投じ、儀式を愛し、梵唄を愛し、荘厳を愛していた。

上皇が死んだ。つづいて母太后も死んだ。女帝は遂に我身の自由を見出した。