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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
先ず豊成が右大臣となり、その弟の押勝が紫微中台の長官となった。彼等は四家のうち、長男武智麻呂の南家の出であり、その年齢も特に長じて、五十をすぎていた。豊成の栄達は自然であったが、押勝は破格であった。その栄達にあきたらず、寵をたのんで、諸兄を退け、皇太子の廃立を行い、陰謀によって敵を平げ、その兄すらも退けた。あとを襲って右大臣となり、二年の後に、太政大臣に累進した。
藤原若手の貴族達は一門の昔の夢を描きつつ、年毎にその当然の官位をすすめていたが、今は、当面の敵を倒さなければならなくなっていた。当面の敵は、押勝であった。なぜなら、押勝も同じ彼等の一族ではあったが、まるで彼等の首長のように専横すぎるからであった。
彼等のすべては個人主義者、利己主義者であった。彼等は一族の名に於て団結したが、それはただ共同の敵を倒すための便宜以外に意味はなかった。彼等はただ己れの利益と、己れの栄達を愛していた。そして、生れながらの陰謀癖と、我身の愛を知るのみの冷酷な血をもっていた。その老獪な陰謀癖とつめたさは鎌足以来の血液だった。
陰謀の主役は年長の永手よりも、むしろ若年の百川だった。