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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

道鏡は幼時義淵に就て仏学を学び、サンスクリットに通達していた。青年期には葛木山に籠って修法錬行し、如意輪法、宿曜秘法等に達し、看病薬湯の霊効に名声があった。その法力と、仏道堅固な人格と、二つながら世評が高く、内裏の内道場に召されたのだ。

彼の魂は高邁だった。その学識は深遠であった。そして彼は俗界の狡智に馴れなかった。小児の如くに単純だった。荒行にたえたその童貞の身体は逞しく、彼の唄う梵唄はその深山の修法の日毎夜毎の切なさを彷彿せしめる哀切と荘厳にみちていた。彼はすでに押勝に劣らぬ年齢だったが、その魂の、その識見の、その精進の厳しさによって、年齢のない水々しさが漂っていた。

天皇はいつ頃からか、道鏡に心を惹かれていた。

天皇はすでに位を太子に譲り、上皇であった。然し、新帝の即位は名ばかりで、政務は上皇の手にあった。

六代の悲しい希いによって祈られてきた宿命の血、家の虫のあの精霊が、年老いた女帝の心に生れていた。その肉体は益※(二の字点、1-2-22)淫蕩であったけれども、その心には、家の虫の盲目的な宿命の目があたりを見廻し、見つめていた。

色々のことが分ってきた。