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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

清麻呂の態度は明らかに、阿曾麻呂は道鏡の旨をうけて贋神教をもたらした傀儡であると断じている。清麻呂の神教自体の語るところが、そうでなければ意味をなさぬ。女帝は道鏡を知っていた。彼にはあらゆる策がなかった。かりに己が主観はとりのぞき、真実阿曾麻呂が道鏡の傀儡だったと仮定せよ。和気清麻呂とは何者か。彼はただ神教の真否をただす使者ではないか。ありのままの神の言葉を取次ぐだけの使者ではないか。私情のあるべきいわれはない。語気のあるべきいわれはない。言葉と意味があるだけでなければならぬ。

清麻呂の語気は刃物となって道鏡を斬り、怒りと憎しみと正義によって、高ぶり、狂っているではないか。即ち、そこにあるものは、神教ではなく、彼自身の胸の言葉でなければならぬ。

すべてがすでに明白だった。阿曾麻呂も清麻呂も、ぐるなのだ。道鏡をおとすワナだった。

道鏡は激怒にふるえていた。面色は青ざめはてて、その息ごとに、その鼻から、その目から、忿怒の火焔の噴きでぬことが不思議であった。

女帝はかかる傷ましい道鏡の顔を見たことはなかった。女帝の胸は苦痛にしびれた。一時に怒りがこみあげてきた。