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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

こういう御両人であるから信長以前の戦国乱世では大人物どころか三流四流の小者であり、大馬鹿野郎の律義者で笑われてもほめられることはない筈だが、天下の気風が変ってきたから、自然に諸侯の許す大人物となった。芸術の仕事は書き残しておけば他日認められて正当の評価を受けることも有りうるけれども、政治家などは現実に機会にめぐり合わなければそれまでで、家康や利家ぐらいの人物はいつの時代にもいたであろうが、ちょうど時代に相応する、機会にあうということで力量手腕を全的に発揮して歴史に名を残すこととなる。力量手腕を存分に発揮する機会を得れば十人並以上の人なら相当のことは誰でもやれる。時代の支持があるかどうか、ということが問題で、家康の場合は時代の方が先に買い被ってでてきた。家康は十人並よりはよっぽど偉い人で、公平に判断しても当代随一の人傑であったが、時代が先についてきたのでむしろ時代に押されて自分自身を発見して行ったようなお人好しで鈍感でお目出度いところがある人であった。

家康が副将軍だなどと言われて大変な人望があるものだから、秀吉の側近の連中は家康の変に鄭重慇懃な律義ぶりを信用せず、三河の古狸には用心しなければというような疑心をいだいてそれとなく秀吉にほのめかす。