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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
その原理とは、父は自分をすてても同盟に忠実であった、という正義である。家康はその正義を信仰し、その父を心中ひそかに英雄化してはぐくんだ。父は自分をすてたにも拘らず、自分はむしろ織田の厚遇を受けた、そのことすらも父の正義の当然の報酬の如く感じた、或いは感じたがろうとした。こうした彼の環境をつらぬく原理が、やがて彼自身の偶像たる独自な英雄像を育てあげたので、彼が後年信長との二十余年の同盟に忠実であった当代異例の独自の個性がこうして生れつつあったのである。
彼の父が彼を棄てた如く、家康も亦自分の子供を人質にだし、煮られようと焼かれようと平気であった。家康を人質にだして勝手に殺すがいいさとうそぶいた広忠のまことの心事はどうであったか、これをたずねるよしもないが、わが子わが孫を人質にだした家康の場合は冷然たるもので、子供や孫ぐらい、彼は平然たるものであった。従って、彼は秀吉が小牧山の合戦のあとで母を人質によこしたり妹を嫁にくれたりして上洛をうながしたときにも、母や妹の人質などということにはなんの感動もなかったので、ただ時の勢いというものに冷静に耳をすまし目を定めていただけのことであった。