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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
弁兆は食膳の吟味に心をくばり、一汁の風味にもあれこれと工夫を命じた。団九郎の坐禅諷経を封じて、山陰へ木の芽をとらせに走らせ、又、屡蕎麦を打たせた。一酔をもとめてのちは、肩をもませて、やがて大蘿蔔頭(だいこん)の煮ゆるが如く眠りに落ちた。ことごとく、団九郎の意外であった。一言一動俗臭芬々として、甚だ正視に堪えなかった。
一夕、雲水の僧に変じて、団九郎は山門をくぐった。折から弁兆は小坊主の無断不在をかこちながら、酒食の支度に余念もなかった。
雲水の僧は身の丈六尺有余、筋骨隆々として、手足は古木のようであった。両眼は炬火の如くに燃え、両頬は岩塊の如く、鼻孔は風を吹き、口は荒縄を縒り合せたようであった。
雲水の僧は庫裏へ現れ、弁兆の眼前を立ちふさいだ。それから、破れ鐘のような大音声でこう問うた。
「※(「口+童」、第4水準2-4-38)酒糟の漢(のんだくれめ)仏法を喰うや如何に」
弁兆は徳利を落し、さて、臍下丹田に力を籠めて、まず大喝一番これに応じた。
と、雲水の僧は、やおらかたえの囲炉裏の上へ半身をかがめた。左手に右の衣袖を収めて、紅蓮をふく火中深くその逞しい片腕を差し入れた。