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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
「しばらく誦経致そう」
和尚は腹痛を押えてやおら立上り、木魚の前に端坐した。優婆塞優婆夷の合唱にかくれて、ひそかに始末する魂胆であった。そこで先ず試みに一微風を漏脱したところ、ことごとく思量に反して、あとはもはや大流風の思うがままの奔出を防ぎかける手段もなかった。大風笛は高天井に木魂して、人々がこれを怪しみ誦経の声を呑んだ時には、転出する凸凹様々な風声のみが大小高低の妙を描きだすばかりであった。臭気堂に満ちて、人々は思わず鼻孔に袖を当て、ひとりの立上る気配を知ると、我先きに堂を逃れた。
釈迦牟尼成道の時にも降魔のことがあった。正法には必ず障礙のあるもの、放屁を抑えようとして四苦八苦するのも未だ法を会得すること遠きがゆえであり、放屁の漏出に狼狽して為すところを忘れるのも未だ全機透脱して大自在を得る底の妙覚に到らざるがゆえである。即ち透脱して大自在を得たならば、拈花も放屁も同一のものであるに相違ない。静夜端坐して、団九郎はかく観じた。
それにつけても、俗人の済度しがたいことを嘆いて、人里から一里ばかり山奥に庵を結び、遁世して禅定三昧に没入した。
冬がきて、田舎役者の一行がこの草庵を通りかかった。