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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
雪国の農夫達は冬毎にその故里の生業を失い、雪解けの頃まで他郷へ稼ぎにでかけるのが昔からの習いであった。部落によって、あるいは灘伊丹の酒男、あるいは江戸の奉公と様々であるが、所によっては、越後獅子の部落もあり、村廻りの神楽狂言芝居等を伝承するところもあった。もとより正業は農であるが、副業も亦概ね世襲で、現今も尚このあたりには冬毎に芝居を巡業する部落がある。丈余の雪上に舞台を設え、観客も亦雪原に筵をしき、持参の重箱をひらいて酒をのみながら見物する。木戸として特に規定の金額がないから、金銭を支払う者は甚だ稀で、通例米味噌野菜酒等を木戸銭に代え、一族ひきつれて観覧にあつまる。演者はただひたすらに芝居を楽しむという風で、寒気厳烈の雪原とはいえさながらに春風駘蕩、「三年さきに勘平の男前の若い衆はどうなすったね。女の子が夢中になったものだったが、達者かね」「あの野郎は嬶をもらって、今年は休ましてもらいますだとの」などいう会話が幕の間に舞台の上下で交わされる。座長と見える老爺など終生水呑百姓の見るからに武骨そのものの骨柄であるが、巧みに女形をしこなして優美哀切を極め、涙の袖をしぼらせること、いつの年も変りがないということである。