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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
こんな疲弊した山村では淫売がむしろ快活な労働にもなるのだろうが、見るからに快活、無邪気、陽気で、健康な女がいるのである。そういうだるまの一人がこの店にもいた。
旅人がこの銘酒屋の暖簾をくぐって現われたとき、土間の卓には禅僧がお綱と共に地酒をのんでいる時であった。山村のことで旅人をむかえる部屋が年中用意されているわけでもないから、部屋の支度をととのえるあいだ、旅人も卓によって地酒をのんだ、旅人を見るとお綱の浮気の虫が動いた。
部屋の支度ができ、旅人は二階へ上って、だるまを相手に改めて酒をのみはじめた。暫くすると階段をのぼる威勢のいい跫音がとんとんとんと弾んできて、お綱がにやにや笑いながら、旅人の部屋へ現われた。坐ろうとしないで、すくすく延びきった肢体をくねらせながら突立ったままであるが、片手を目の下へもって行き、のぞき眼鏡のような手の恰好をこしらえて人差指でおいでおいでをしたのである。旅人は莫迦々々しさに苦笑せずにいられなかった。
「ここへ暫く泊るの?」
「明日から温泉へ泊るのだ」
「明日の晩、今時分ここへおいで」
野性の持つあの大胆な、キラキラとなまめかしく光る流眄を送り、お綱はくるりとふりむいた。