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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

お綱は居酒屋へかけこんだ。そこには土方が待っていた。お綱は土方の卓に倒れた。彼には決して理解することのできなかった逸楽のあとの満足のために疲れきった肢体をなげだし、お綱は苦しげに笑いのしぶきを吐きだしていた。若者達の一団が追いついた。――

甚だありふれた事情が起った。同時に奇妙な事件であった。

居酒屋にはホセのほかにも一人の土方がだるまを相手にしていたが、彼等はこの土地の鈍重な自然人とは種属がちがって、流れ者の度胸と機に応ずる才智があった。二人の土方は立ち上った。若者達は顔色と言葉を失い、あとじさりした。道路へじりじりさがっていった。二人の土方も道路へでた。若者達の一団に気転のきいた一人がいたらここで一言わびるだけで無事無難に終ったのだが、鈍重な気候や自然はそういう気転と仇敵の間柄ではぜひもない。こんな騒ぎが起っていても村は眠っているのである。もとより人家すら三十間に一軒ぐらいの間隔で至ってまばらなものであるが、その住人も山の頂きの踊りの方へ出払っている。赤ん坊と植物と暗闇だけではこの騒ぎも誰知る人があるまいと思いのほか、生憎の人物がどうしたはずみかこの場に居合わしていたのである。